2011年08月20日

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設計ということ(2):独創的設計は「発明」?

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設計という言葉には程度の差こそあれ、必ず新規性が含まれている。

交通機関の設計を例にとれば、航洋船舶も飛行機も飛行船も陸上車輌も在来の設計をベースに性能とか積載量とか居住性などに改良/改善を加えたものが多い。
これに対して既存概念になかったものを実現した場合は発明と呼ばれることが多い。
画家であったロバート・フルトンが設計した蒸気船や、自転車屋であったライト兄弟の作った飛行機や、退役軍人のツェッペリン伯爵の建造した硬式飛行船などがその例である。
しかし、従来型のものの設計にあたっても強度や機能に欠陥があってはならず、納期や予算などの制約の範囲内で目標とする性能を実現させるためには設計指針が必要である。
英語では "Design Policy" とか "Deisign Philosophy" とか表現される。

船舶の場合、3Sと呼ばれるものがある。
設計において必ず満たさなければならないとされる Speed(速度)、Strength(強度)、Stability(復原性)である。
但し、この3項目の重要度には大きな差がある。
構造強度と復原性は基本的要件であるが、速度や載荷容量など性能は所定の目標を達成しなくても船舶には違いない。
ただ、これらが契約条件に謳われている場合には大幅な値引きが要求され、場合によっては引取を拒否されることもある。

設計条件がつけられる場合もあるが、主要寸法や部材寸法など多すぎる自由度がある。
鋼板も板厚・板幅・長さ・枚数などを指定して製鉄所に発注するし、形鋼も断面を指定することもある。
これら数十万点にのぼる部材寸法を計算して求めようにも、そこに掛かる荷重は決めようがない。
どこかの誰かのように何か起きた場合「想定外」などとは口が裂けても言えない。

復原性とは水上に浮揚している船舶を転倒させようとする静的あるいは動的な外力が加わった場合に鉛直に立て直す力である。
浮心は水面下の船体形状によって決まる。
船体構造の重量や載荷重量により全体としての重心が決まる。
この浮心と重心の位置関係により、波や風により転倒させる力が働くときそのまま横転するか復原力が働くかが決まる。
但し、復原力が強すぎるとちょっとした波でグラグラと揺れて乗り心地が悪くなる。

速度についても厄介なことがある。
船の形、特に長さが決まるとその船舶の発揮する速度の上限が存在するのである。
ブルーリボン競争に勝とうとエンジン出力を過大にして、当直航海士が首から画板をさげて航海日誌を書かねばならぬほど船全体が振動するばかりで速度が上がらなかったという実話もある。

多くの条件を満たしつつ船舶を設計することはやり甲斐のある仕事であるが、数十人・数百人で出図日程を守って設計を進めるには「その船に如何なる機能を持たせるか」という方針が決まらなくてはならぬ。

飛行機も全く同じことで、最高速度も運動性能も載荷重量も航続力もすべてを追求することは出来ない。

従来、主任設計者というとりまとめ責任者がいた。

いま技術も細分化が進み、一人で全体を見通せる人は居ないのではないだろうか?


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