ダンスタイム

---

船に乗る楽しみは多い。初めて訪れる寄港地や航海中に遭遇する行き合い船も楽しいし、クジラやイルカ、それに南海を通り過ぎてゆくスコールや海の上で見る虹など自然現象も船旅ならではのものがある。

しかしながら、何と言っても暖かいコミュニケーションを一番に挙げる人は多いに違いない。船旅では一番の楽しみは陸（オカ）の世界ではすっかり薄れてしまった人と人との温かいふれあいが残っていることであろう。

初対面同士でもプロムナードデッキやロビーで逢うと「おはようございます」あるいは「こんにちは」とにこやかに挨拶が交わされる。乗船客と乗組員の場合もあるし、乗船客同士のこともある。
そして、朝なら「昨夜は良くお休みになれましたか？」とか「先ほど、右舷にクジラのブローが見えましたが、ご覧になりましたか？」とか、爽やかな会話が交わされる。
出港直前の慌ただしい時間に急ぎ足で通り過ぎるオフィサーやクルーに「お早う！」と声を掛けても、キチンと立ち止まって「お早うございます。」と答えるに違いない。
ディナータイムにはテーブルメートとの楽しい会話がとても大切にされる。

そして、ショータイム後のソーシャル・ダンスを楽しみにしているご婦人も多い。
このページでは乏しい経験の中からダンスタイムを取り上げて見ることにする。

我が国のクルーズ船はリピータへのサービスとして、数ヶ月毎に寄港地やイベントを企画して、その都度発表している。
我が国のクルーズ人口は増加の傾向にあるとは言うものの、米国の６２５万人、英国の約７５万人に遙かに及ばず、９９年の統計では約２０万人である。
このため、年に何度も乗船して貰うために努力をしているのである。

これに較べて外国のクルーズ船は、カリブ海・エーゲ海など決まったコースを決まった行程で運航している。
スケジュールや寄港地を考える必要もないし、寄港地での官辺手続きもポートエージェントの手配もルーチンワークとして、余計な手間や経費を節約することが出来る。
夏にはアラスカで氷河クルーズを繰り返し、秋口になるとパナマを抜けてカリブ海に移動する船もある。

それでも、船によってはテーマクルーズを企画して集客を計っているものがある。
その中にダンスクルーズがあり、「ＱＥ２」などでは全英選手権大会に出場するトッププロを呼んでデモを行ったりすることもある。

ダンスの愛好家にはたまらない企画である。世界のトッププロと食事をしたり、話を聞くチャンスがあるだけでなく、クルーズ中安いレッスン料で個人レッスンを受けることも出来るのである。

アメリカで発行されている「Cruise Travel」と言う隔月刊の雑誌がある。
その雑誌の２００１年２月号に、「Dancing At Sea」と言う記事を見つけたのでそれを紹介し、これに間に合わなかったＰ＆Ｏの新造船「オーロラ」や日本のクルーズ船について知っている範囲で記述してみたいと思いこのページを書くことにした。

２００１年３月に初のワールドクルーズで我が国にお目見えしたＰ＆Ｏのフラグシップ「ＡＵＲＯＲＡ」の設備を紹介しておこう。

この船は２０００年に完成した新造船で、総トン数７６０００トン、乗客定員１８７０人である。２００１年のワールドクルーズでは空室無しの盛況で、内訳は英国人が過半数で、豪州人がこれに次ぎ、米国人と日本人がそれぞれ数十人であった。

この乗船記については近々報告する予定であるが、ここではダンスに関する施設面の概要を紹介する。

デッキ名称は上からサンデッキ（１３デッキ）、リドデッキ（１２デッキ）、アルカディアデッキ（Ａデッキ：１１デッキ）、ブリタニアデッキ（Ｂデッキ：１０デッキ）、キャンベラデッキ（Ｃデッキ：９デッキ）、デバナデッキ（Ｄデッキ：８デッキ）、プロムナードデッキ（７デッキ）、エローラデッキ（Ｅデッキ：６デッキ）、フォーモサデッキ（Ｆデッキ：５デッキ）、グラナダデッキ（Ｇデッキ：４デッキ）となっている。

いわゆるホリゾンタル配置で、サンデッキ（１３デッキ）とプロムナードデッキ（７デッキ）には乗船客のキャビンはない。
リドデッキ（１２デッキ）、プロムナードデッキの一層上のデバナデッキ（８デッキ）、および、２つのメインダイニングのあるエローラデッキ（６デッキ）の前部には乗船客のキャビンが配置されている。

ダンスフロアを上から見てゆくと、サンデッキ（１３デッキ）の最前部にある「クローズネスト」と言うビスタラウンジには右舷側にダンスフロアがある。
このすぐ後方に、左舷に「ウガンダ」、右舷に「ヒマラヤ」と言うホールがあり、プライベートパーティなどに使われているが、ここでも勿論ダンスパーティは出来る。

その下のリドデッキ（１２デッキ）の後部にはリドビュッフェ「オランジェリー」があり、アレンジメントでは、ここにも左舷側中央寄りにダンスフロアという文字が見える。
但し、ここでダンスを踊るような場面には逢わなかった。
このリドビュッフェ「オランジェリー」の後方は暴露甲板になっており、天気の良い日はデッキランチを取ることも出来るし「ペナントバー」というカウンタで果てしなく続く航跡を見ながらカクテルを楽しむことも出来る。

Ａデッキ（１１デッキ）からＣデッキ（９デッキ）までは乗船客のキャビンで公室はない。
Ｄデッキ（８デッキ）は後半が公室区画になっている。このデッキの後方右舷側に「デシベルズ」と言う若者向けの区画があり、ここにもダンスフロアが用意されている。
横浜からシンガポールまでの２週間のクルーズでは１，２度そばの通路から覗いた程度で実際に踊っている場面には行き会わなかった。
ここから後方に抜けると暴露甲板になっており、ここに第三のプール・ジャグジーと子供用プールがある。

プロムナードデッキ（Ｄデッキ）は公室ばかりのデッキである。
最前部の「カーソンシアター」にダンスフロアはあるが、ここは専らミュージカルショーなどでエンターテイナー達が踊る舞台である。
通路を後方に辿ると中央に「マスカレード」と言う区画がある。ここはカウンターバーもあるディスコのようなホールである。
勿論ダンスフロアもある。

更に後方に向かい、カジノ・クラブのようなカウンターバーを抜けると「カルメンズ」と言う大きなホールに出る。
ここが本船のメインダンスフロアである。
今回のクルーズは初めてのワールドクルーズであり、乗船客の平均年齢は相当高かった。それに車椅子の夫婦や、両手を松葉杖やスティックで支えた老カップルも居た。
老紳士が、その松葉杖で巧みにリードして、ルンバやジルバを楽しそうに踊るのを見て、ダンスとは人に見せるものではなく自分たちが楽しむものだと言うことを再確認した。

イギリス人達は、オーストラリアから乗船した人達も含めて、ダンスが生活の一部にしていることを再認識したことであった。

「飛鳥」、「にっぽん丸」、「ふじ丸」、「おりえんとびいなす」、「ぱしふぃっくびいなす」など我が国のクルーズ船のダンスに関連する施設については近々ここに追記する予定であるが、とりあえず出来たところからご紹介することにした。

但し、遊休のフェリーなどを利用して、ダンス・クルーズという企画が行われているが、これは少し違うと思うのでここではとりあげない。