2007年04月16日

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(飛行船:306) 『飛行船の黄金時代』 第8章:エッケナー博士に教わった飛行船操縦法(1)

LZ127PC001.jpg

私が得た最も興味深く有益な情報は、大型硬式飛行船の運用・操船に関するものであった。

これは技術というより技能で、エッケナー博士のもとでドイツ人によって高度に洗練されていた。

彼らの比類ない記録は、安全に成就された数千の飛行によってもたらされたものである。
飛行船の操縦は飛行機の操縦よりずっと複雑であった。

飛行機は飛翔時、エンジンの推力により大気中を往く翼に働く動的な力によって空中に維持される。

従って、飛行機は空気動力学の原理で飛んでいると言って良い。

飛行船(および気球。飛行船は動力付きの気球に過ぎない)の場合は明らかに違い、空気より軽いので静止状態で空中に保持される。

このように飛行船は空気静力学的である。

従って重要な運転では、水素とヘリウムの2種類のガスだけを考えればよい。

不活性なヘリウムはアメリカにだけあり、その輸出は法律で禁じられていたので、ドイツ人は可燃性の水素を使わざるを得なかったが、そのため「ヒンデンブルク」の事故の前、戦時中にも多くの人命が失われていた。

標準状態で1000立方フィートの純粋な水素の重量は 5.61ポンドである。

同じ体積の空気は 80.72ポンドであるから1000立方フィートの水素の正味揚力は 75.11ポンドとなる。

如何なる方法でも、この静的揚力を越えることはできず、事実 通常は空気の混入による変化はなかった。

ドイツ人達は、揚力計算で1000立方フィートに対して 72ポンドとして用いていた。

海抜1300フィートのフリードリッヒスハーフェンにおける「グラーフ・ツェッペリン」の 3250,000立方フィートの水素による総揚力は210,000ポンドであった。

空の状態での重量は150,000ポンドで、有効浮力は60,000ポンドであった。

これが乗客とその手荷物と消耗品、乗組員とその所持品、貨物と運送品、バラスト水、備品および予備部品、基本的に重量のないブラウガスのほかに搭載していればガソリンの合計重量になる。

しかしながらバロメーター圧力、湿度、気温およびガス温度、あるいはガス純度などが変化すれば総浮力、ひいては有効浮力に影響する。

一般的に、空気密度が高く、気温が低く、バロメーター圧力が高ければ揚力は増大し、高温でバロメーター圧が低ければ低下する。

従って硬式飛行船では夏より冬の方が燃料、乗客、貨物を多く搭載することが出来る。

これは明らかに「グラーフ・ツェッペリン」の熱帯地方における運用のハンディキャップであった。

湿度は、空気の湿度が高いと幾分揚力が減少したが相対的に影響は小さかった。

それに加えて水素は、ゴールドビターズスキン[註]のようなガスタイトな材質でも、常に外に漏れており、空気が混入しているので、その混入があきらかにガス重量を増やし、有効揚力を減らしていた。

フリードリッヒスハーフェンで、南米飛行のあいだに2〜3日の繋船があったり、ヨーロッパから帰投したとき、あるいは復航の前など、ガス嚢は新鮮な水素で100%満充填され純度が維持されていた。

(続く)

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[註]:ゴールドビターズスキン
当時の硬式飛行船のガス嚢は、牛の大腸を細かく点検した上で洗浄し蒸気で蒸して何層にも張り合わせ数百人の女工によって縫製・検査されていた。
ボッティングの「ツェッペリンのドリームマシン」によると「グラーフ・ツェッペリン」の17の浮揚ガス嚢と12のブラウガス嚢を作るために5万頭の牛の大腸が必要であったと記述されている。
ツェッペリンの最初の飛行船「LZ-1」のガス嚢はゴム引きの綿布だったが、軽くて気密性のある素材として見つけられたようで、イギリスで飛行船を建造した時期にも広く用いられていた。

gascell.jpg

この写真は飛行艇メーカーとして知られていたショート社の飛行船工場で女工達がガス嚢を製造している工程である。

面白いことに、我が国の文献ではゴールドビターズスキンを牛の盲腸と説明しているものが多い。
最初に誰かが誤訳したものが孫引きされたものであろう。

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