2007年07月09日

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(飛行船:381) エッケナー博士とツェッペリン飛行船(37)

Dettmann1.jpg
(L.デットマンが操縦室から描いた雲の中を往くツェッペリン)


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 グラーフ・ツェッペリンの最初の飛行(16)

翌日(水曜日)の朝、外を見渡すと西よりではなく、激しい北よりの秒速22mの風が吹き、まわりには嫌な雲とスコールが近いことに気付いた。

英国海峡入り口に向かう東方には、まだ400kmの距離があったが、リザード岬とブレストの間の空は特に雲が厚かった。

嵐は予報のように北東には動いておらず、どう見ても南の方に移動していた。

海洋気象観測所から午前7時に受信した気象状況では「低気圧の谷がアイリッシュ海からビスケー湾に発達しつつあり。その西端では驟雨前線が発達し、風速20m/秒」と知らせてくれた。

空模様を見てそれは正しいと思い、こちらの天候状況を午前6時に観測所に送ったときのことを思い出した。

もう一つ低気圧があった!

読者もご承知のように、我々はこれらの低気圧に、アメリカ沿岸からノバスコシア、バーミューダとつきあってきた。

この気圧配置が何を意味しているのか我々には判らなかった。

アメリカ沿岸では嫌な驟雨前線が西側にあり、それをひどいピッチング・ローリングで越えてくると、今度はニューファンドランドのトリニティ湾で飛行船をコースから逸らせた激しい南の強風がやって来た。

嫌だ!

明らかに暴風域が近接しており、予測できない低気圧が発達中で、おそらく本格的低気圧になるのであろう。

この場合、海峡の入り口でスコールに入りたくないので、もっと南よりのコースをブスケー湾に向けて驟雨前線に沿って飛ぶ方がましであった。

航法の観点から見れば、これは非常に危なっかしく思えたが、芸術的・美的観点から見れば魅力的であった。

それで我々と共に乗っている画家、デットマンを操縦室に来るように呼びにやった。

彼は実に壮大な雲の群れや、聳える山岳、マッターホルンの頂上、昇る朝日の素晴らしい形や色など、迫力のある何枚かのスケッチを描き始めた。

そのあと2〜3時間にわたって展開されたのは、驚嘆し凝視する筆舌に尽くしがたい終わりのない美しいパノラマであった。

この舞台のような光景に満たされていたが、やがて徐々に実際に起きている現実問題に注意を向けた。

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[註1]リザード岬
イングランド・コーンウォールの南西端の岬。
英国海峡の南口に近い。

[註2]ビスケー湾
フランスの西に広がる大きな湾。
その北にブルターニュ半島が突きだし、その先端にブレストがある。
ブルターニュ半島の北は英国海峡の入り口で、遙か対岸に上記リザード岬がある。

[註3]ルードウィッヒ・デットマン
グラーフ・ツェッペリンに同乗し、ニューヨークの夜景や積乱雲をゆく同船など多くの絵画を残している。


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