2009年10月01日

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近代的旅客用飛行船の系譜(8) 休戦協定直後に出現した新型飛行船(6)

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新造時の「LZ120:ボーデンゼー」のガス容量は2万立方メートル、長さ120.8メートル、最大直径18.7メートル、最大高さ21.6メートル、最大幅(水平尾翼)20.0メートル、自重13,650キログラム、載荷重量9,600キログラム、総出力720キロワット、最高速度130キロメートル/時であった。

ほぼ同じガス容量の「LZ17:ザクセン」は長さ142メートル、平行部直径14.9メートル、自重15トン、載荷重量6.3トンで20人の乗客を乗せることが出来たが、その最高速度は時速76キロメートルであった。出力は「LZ120」のほぼ半分、355キロワットに過ぎなかった。
これを時速130キロにするためにどのくらいのエンジン出力が必要だったか3乗則に従って計算すると、約1750キロワットという数字になる。
ヤライの研究によって、流線型にしたり付加物の空気抵抗を減じたりすることなどにより僅か6年間で、空気抵抗を4分の1に低減させたということも出来る。

より高い速度を追求するのは、飛行時間の短縮や経済性のためだけではなく、安全性のためでもあった。例えばボーデンゼーからベルリンに向かうとき、毎秒15メートルの向かい風に対抗して航行しなければならなかった。
「ボーデンゼー」の巡航対空速度、時速120キロメートルは対地速度では時速66キロとなり、610キロメートルの航程に9時間半を要した。
もし仮に「ザクセン」が飛行するとすれば対空速度で時速65キロ、対地速度では毎時11キロにしかならず、とても運航できる速度ではなかった。
スケジュールに従って運航することは速度に余裕がないと出来ないのである。

「LZ120」の船体は船首から船尾まで17本の縦通材が配置されており、その縦通材に11個の強固なリングが固着されていた。このリングは正17角形で、その前後に建造された飛行船のように桁で補強はされていなかった。そのリングの間隔は10メートルで、そのあいだには補助リングが配置されていた。
これらの縦通材やリングはデュラルミン材を三角形に組んで構成されていた。
船体中心線上には船首端より20メートル隔たったところから船尾端の10メートル手前まで、高さ1.75メートルの三角断面で人が歩いて通れる通路が設けられていた。船体各部に行き来するためだけではなく、点検や手入れ・補修のためであったが、エンジンゴンドラへの通路でもあった。
厚みのある垂直・水平安定板の後縁には方向舵・昇降舵が取り付けられていた。下部垂直安定板と下部方向舵は離着陸時に地面に接触して損傷しないように6.5平方メートルに限定されていた。
主リングには蜘蛛の巣のように張線が張られ、各リングのあいだには12個の円筒形ガスセルが収容されていた。
ガスセル(ガス嚢)は牛の腸壁(「ゴールドビーターズスキン」)を幾重にも積層されており、浮揚ガスである水素が充填されていた。それぞれのセルには下部に圧力調整弁があり、2つ分をまとめて鉛直ダクトで飛行船頂部の排出口に導かれていた。
4つのガスセルにはガス噴出用の操作弁があり、索により操縦席から操作可能であった。
エンジンは、記述のように当初3つのエンジンゴンドラに、高度1800メートルで180キロワットに調整されたマイバッハMbⅣa高性能エンジンが4基搭載されていた。
その6気筒エンジンの出力あたり重量は1キロワットあたり2.2キログラムで、燃料消費量は毎分1400回転のとき、1キロワットあたり270グラムであった。
ラジエーターはゴンドラ前部の調整可能な開口の後に組み込まれていた。

240キロのエンジンオイルはそれぞれ60キロ毎のタンクに入れられて、4基のエンジンの傍に配置され、ガソリンは12本の円筒形タンクにそれぞれ260リットル(185キロ)毎搭載され、最大で2220キロとなった。
各エンジンは巡航速度で航行するとき、1時間あたり約45キログラム消費するので燃料満載では4基のエンジンで11〜12時間(距離にして1400キロメートル)航続できた。エンジン3基では約16時間(1900キロメートル)になる。
前部の4個のガソリンタンクは、非常用バラストとして投棄することが出来たが、幸い一度も使われることはなかった。

通常離着陸時に用いられるバラスト水は通路の傍に4つの容器にそれぞれ1立方メートルずつ入れられていたほか、前部と後部にそれぞれ100リットルの端を二重に縫った防水布袋「バラストホーゼ」が取り付けられていた。ホーゼというのはドイツ語でズボンのことで、船体傾斜によって重心移動を抑えるために考案されたものである。瞬時に排水可能なように下部はバルブを介して船体底部に取り付けられている。
結局「ボーデンゼー」にはこれまでで最大の合計約5トンもののバラスト水が搭載可能であった。

郵便物、手荷物および予備品の設置場所は船体中央部3分の1の範囲で通路に沿って設けられていた。船体中央部には当直明けの乗組員のための椅子や寝椅子、ハンモックも備えられていた。


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