2009年10月11日

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シュッテ・ランツの航洋旅客用飛行船

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前回、ツェッペリン飛行船製造社の輸送用飛行船「L100」と「LZ125」について述べたので、今回はライバルメーカー、シュッテ・ランツ社の航洋旅客用飛行船「アトランティック」を取り上げてみた。

ここに挙げた完成予想図は、1926年に刊行されたエングバーディング著「飛行船と飛行船の旅」に掲載されたものである。
1926年といえば「LZ126:ZRⅢ(ロサンゼルス)」をレークハーストに納入した2年後で、エッケナー博士らが、乗客を乗せて大西洋を渡洋する飛行船(のちの「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」)を建設するための基金集めにドイツ国内を講演してまわっていた頃である。

そのとき既にシュッテ博士は合衆国に具体的な設計をもって、交渉に携わっていた。
アメリカ側のメンバーには、後に大統領になり目障りな日本の進出を封じるために強攻策をとったフランクリン・ルーズベルトも居た。
上掲「飛行船と飛行船の旅」に掲載の図表には「アトランティック」の完成予定を1920年としている。

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これは飛行船「アトランティック」の船内ラウンジである。

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同船のダイニングルームと乗客用キャビンのイメージである。

ブルックスの著書「ツェッペリン:硬式飛行船」では、「アトランティック」を「SL25」ではないかと推測している。

ドイツのウィキペディア(http://de.wikipedia.org/wiki/Schtte-Lanz)によれば「アトランティック」は「SL101:Atlantic」であり、その要目はガス容量9万5千立方メートル、長さ230メートル、直径29.5メートル、最高時速130キロメートル、エンジン10基で総出力は2200キロワット、98名の乗客と貨物の載荷重量20トンとある。

それだけではない。
「SL102:Panamerika」は、ガス容量20万5千立方メートル、長さ298メートル、直径38.5メートル、最高時速130キロメートル、18基のエンジンで総出力3970キロワットと表示されている。
「SL103:Pacific」は、ガス容量15万立方メートル、長さ274.5メートル、直径35メートル、最高時速128キロメートル、13基のエンジンの総出力は2870キロワット、搭載能力は乗客100名と貨物38トンであるという。
そのほかに仮称「Kentucky」という飛行船は、ガス容量11万4千立方メートル、長さ244メートル、直径31.5メートル、最大速度128キロメートル、エンジン10基で総出力は2200キロワットという設計も掲載されている。
「Fram」という飛行船は「SL103」と同型であり、調査研究用飛行船で強化された構造で、特別に全天候型に設計されているという。

しかし、シュッテ・ランツはアメリカに売り込むことは出来なかった。

グッドイヤー・タイヤ・ゴム社がツェッペリン飛行船製造社と合弁でアクロンにグッドイヤー・ツェッペリン社を設立して、フリードリッヒスハーフェンからアルンシュタイン等技術陣が派遣された。

ドイツで2隻、アメリカで2隻の大型飛行船を保有し、大西洋横断航空路を開設しようとしたプロジェクトは1937年にレークハーストで「LZ129:ヒンデンブルク」が爆発炎上した事故で実現されることはなかった。

余談ながら、この事故のあとアメリカ議会では条件付きながらヘリウムをドイツに輸出することを認める議案が可決され、ドイツとアメリカ(レークハースト、フロリダ)でヘリウムで運用するための工事が進められた。
しかし、アメリカの内務長官イッキースが書類に署名を拒んだためヘリウムの輸出が許可されることはなかった。


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