2009年10月22日

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未来の旅客用飛行船を考える(9) 過去の事例を考察するにあたって(1)

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この第2回で、硬式飛行船事故の要因として、天候予測の困難、運航実績の運用へ反映の不徹底、洋上航法システムの不備を挙げた。

そして、その後6回にわたって、過去に運用されていた硬式飛行船160隻の結末を網羅した。

それをこれから検証しようとしている。

それに先だって、船舶や航空機の設計に関する考え方を振り返ってみる必要がある。
デザイン・ポリシーとかデザイン・フィロソフィーと言われていることである。

飛行機を例に挙げれば、速度が他のどの飛行機よりも速く、急旋回も宙返りも出来て、数百人を乗せることが出来、航続距離や時間が長大な飛行機など、それを考えるだけで馬鹿げている。

しかし長い計画・開発機関に運用側、特に軍用機の場合はどんどん要求事項やその内容が増大して本来の開発目的と違う分野で運用されることもある。
当時英米独のような航空機先進国に追いついて一挙に世界トップレベルになったと言われる日本海軍の96式中型攻撃機(中攻)は「八試特偵」(昭和八年式試作特殊偵察機)として開発されたものを、翌年「八試中攻」(昭和八年式中型陸上攻撃機)と改称したものがベースとなっている。
ちなみに中型攻撃機とは、双発で水平爆撃も雷撃も出来る機種である。

稀に戦闘にも爆撃にも偵察にも使える飛行機が開発されたこともあるが、はじめから八方美人的な計画で開発を始めたものにろくなものはない。

それに、エンジンにしても構造部材にしても寿命はある。どのような使い方をして何年程度運用するかという点も重要である。その場合、その運用目的と航行区域を前提として計画される。

また絶対に沈まない船がないように、落ちない航空機はない。

船舶も航空機も長い運用の結果、プロトタイプと同等の強度を持たせるように設計される。
もちろん、前例のない画期的な開発が行われる場合もある。その場合、強度設計に例をとれば全く方式が異なり全体強度を比較できない場合には、部分構造や重点部材について定常荷重ばかりでなく衝撃荷重、繰り返し荷重などに対して応力集中係数や実荷重を想定した疲労強度などで設計段階から検討され、最終的には実機と同じものを作って破壊強度を確認する。これは0号機と呼ばれることがある。

そのようにして建造されたものであるが荷重条件によって破壊し、墜落したり沈没し、許容深度以下に潜航した潜水艦は圧壊する。

商船でも艦艇でも荒天中に破断したり、沈没したりする例もある。
艦艇では、昭和10年に実施された艦隊演習中に巡洋艦、潜水母艦、航空母艦などの船体に波浪による損傷が発生し、駆逐艦「初雪」と「夕霧」は艦橋直前で船体が破断し、「睦月」は艦橋が圧壊しするなど広範囲に被害を受け演習は中止され、全艦艇に対して対策が講じられた。

商船では電気溶接を多用したアメリカの戦標船「リバティ」級が航行中に突然船体が破断沈没する事故が多発した。

戦後も東京湾の近く野島崎沖で大型専用船「ぼりばあ丸」、「かりふぉるにあ丸」が台風のため沈没し、当時の運輸省を中心に大規模な波浪外力とその応答を研究する委員会が設立された。

外界の条件を適性に評価し、それに対応した設計を行い、運用基準に基づいて運航されなければならないのは飛行船も飛行機も船舶も同様である。

このように過去の実績を勘案して新規設計を行うので、経験工学と言われることがある。
10年以上前になるが、ツェッペリン飛行船技術社が「ツェッペリンNT07」を認可申請したときには、ほとんど新規開発であるから申請書類やデータを揃えるのは大変であったことと思われる。


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