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システム技術部発足(広島に住んで:9)

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制御技術というのは重要であるが企業として活動して行く上で主導権が取りにくい。
それで、プラントや工場ごと一括受注することを狙ってシステム技術部という発想が出たものらしい。

1985(昭和60)年2月に長崎、神戸、広島など各研究所の制御関係の研究室を切り離し、それらをシステム技術部として新編したのである。

システム技術部の中枢は神戸造船所の3号館に設置した。
システム技術第1研究室を長崎に、同第2研究室を高砂に、同第3研究室を広島に、同第4研究室を名古屋(大江地区)に置き、名古屋市中村区岩塚にメカトロニクス開発センターを設けた。

この時システム技術開発室としないで研究室としたのはそれぞれ研究所に分駐していたからであろう。

私はシステム技術第3研究室所属となったが、引き続き海洋構造物や浚渫船のシステム開発に従事していた。
やはり、ハードウェアがあっての上でソフトウェアであると思っている。

そのとき開発に携わったのは全没型浚渫ロボットの歩行制御システムである。

そのプロジェクトは国内某所の維持浚渫に関わるものであった。
稼働海面は、常時大量の流れがあり、そのため海底砂が移動して海底に起伏が生じる港湾であった。
その港湾は大規模な施設のための専用港湾で外洋に面してはいるが、それほど大きな港湾ではなく、在来のポンプ浚渫船ではスイングアンカーを打つには狭すぎ、水深も大きくないので着底するおそれもあった。
しかし、港湾としての機能は果たさなければならないという特殊な条件であった。

それで、浚渫船を小型にまとめて海底を歩行させ、陸上の操作室から遠隔操作するアイデアが生まれた。
搭載機器を水密区画に納め、排砂管に添わせた光ファイバーでロボットの姿勢や機器の運転状況をモニターし、在来のポンプ船の運転室とほぼ同じ操作で浚渫できるシステムである。
しかし、運転と同時に歩行を手動で行うことは容易でないと考えて歩行は自動で行わせる方式とした。

しかし、海底の状況を把握することは難しく、凹みがあるかもしれず、岩塊があるかもしれない。
それでロボット本体に前後左右の僅かな傾斜でも検出できる検出計を常時検出するようにし、脚昇降の制御はストローク制御と荷重制御を組み合わせ、歩行時に水平を維持することにした。
本体が僅かでも傾いていると、本体にピン結合されたラダーをスイングする際、浚渫面を水平に保持出来ないためである。

問題は少なくなかった。
潮位をどのように取り込むかも重要である。
浚渫工事は基準水面下何メートルと規定される。しかし、潮位は常に変動しており、各港湾毎に潮汐表はあるが、気圧や高潮の影響で変動するので、浚渫工事は最寄りの潮位表を参照しながら進められる。
また、港内におけるロボットの正確な位置検知も潮位に劣らず重要である。
浚渫計画線はクリアし、そのほかの余堀を局限する必要からである。

前進浚渫も後進浚渫も、直線歩行も方向転換も自動歩行させねばならなかったが、特別な方向転換機構を考案し、特許申請した。

これら、ロボット本体からリアルタイムで検出するデータは、浚渫ポンプ動力、カッターモーター動力、スイングモータ回転数、同動力、中間深度、喫水、ロボット左右傾斜、同前後傾斜、浚渫吸入負圧、吐出圧、管内流速、スラリ密度、船位データ、ラダー深度、スイング角度、堀跡データ(エコーサウンダ)など多数になった。

また、同時に陸上の操作盤からポンプやカッターの回転、スイング操作や弁の開度調整など浚渫操作をロボットに伝送し、それにくわえて自動歩行制御信号も伝送する必要がある。

ロボット本体に装備された油圧シリンダは20本以上になった。

陸上の運転室と浚渫ロボットとを光多重伝送装置によりLAN(ローカルエリアネットワーク)を構築し、遠隔監視盤による手動浚渫運転と自動歩行を実現させ、システム全体の状態監視機能も具備させることにした。

工場で陸上歩行試験、海中歩行試験を完了し、「ふたば」と命名されて引渡された。

現地での運転も順調に進んだ様子で、三菱広島が造船事業から撤退したあと、神戸造船所で後継機が建造され1993(平成5)年に引き渡された。

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この「ふたば2号」が建造されたことは最近知ったのであるが、写真を見るとラダーの中間にヒンジが設けられた以外は殆ど「ふたば」そのものの再現のようである。

戦後も世界各地で稼働海面の特殊事情や特別な機能をもつ作業船が数多く建造されたが、この浚渫ロボットの開発に携わることが出来たのは幸せであったと思っている。

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2012年03月11日 11:31に投稿されたエントリーのページです。

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