2006年09月13日

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(飛行船:101) 飛行船メモ(1)

JA101Z_Dejima_1.jpg

このブログを始めて実質的に1年半が経過した。

当初「旅客用硬式飛行船」として開設したこのカテゴリも「ツェッペリンNT」など硬式以外の飛行船も取り上げているので100回経過したところで「飛行船」と改めた。

飛行船は1世紀以上前に開発されたためか『最も知り尽くされた乗り物』のように思われているが『最も知られていない乗り物』である。

先日某所で「LZ-127グラーフ・ツェッペリン」の写真を見た人は『内部がこんなに豪華とは知らなかった』と言っていた。

いま読んでいるH.G.Knaeusel著 ”Mythos Zeppelin”のまえがきにも
『今もなお、前世紀の30年代に相当数のドイツ ツェッペリン飛行船が大空を航行し、それどころか大陸間で人々の輸送の役割を果たしていたという見解が広く流布している。
どれくらいの数があったかという質問をすれば驚くほど多くの答えが返ってくる。
「数百」という発言も少なくなく、あるいは −より用心深く− 「50くらい」という人も居たかも知れないし、疑い深い人は「1,2ダースくらい」と予測するかもしれない。
事実は、当時ただ2隻の旅客輸送用ツェッペリンがあっただけなのである。
すなわち、1928年から1937年まで稼働したLZ127「グラーフ・ツェッペリン」と1936/7年のLZ129「ヒンデンブルク」である。』
と述べている。

飛行機とは原理的に違い、むしろ船に近い。

但し、水と空気という極端に比重の違う流体の境界面に浮かぶ船は設計者が仮にいい加減な設計をしたとしても水平に近い姿勢で水面に浮かぶ。

ところが飛行船は微妙なバランスで空中に浮かび、その姿勢保持も実にデリケートである。
(このカテゴリの85回に写真を掲載したようにちょっとした操船ミスで長さ200mもある大型飛行船が垂直に逆立ちすることもある。)
その意味では水上の船舶より潜水船に近い。

外気とガス嚢内の気体の比重差で浮揚あるいは沈降するので帆船の操船より気が抜けない。
常に自船の重量を把握していなければならない。
この重量測定をウェイオフという。

ガス容量の限界から実用上昇限度がある。

しかし、飛行船が両世界大戦の間の一時期黄金時代を築いていたことは紛れもない史実である。
飛行機はまだ性能も信頼性も乏しく、ライバルは「クィーン・メリー」など大型航洋客船であった。

LZ-127「グラーフ・ツェッペリン」は1928年9月18日の初飛行したが、翌年10月26日にフリードリッヒスハーフェンからレークハーストまで大西洋横断飛行してから1937年5月8日に最後の飛行を終えるまでに590回の飛行で17177時間、距離にして170万kmを飛び乗客13110人と郵便物39219kg、貨物30442kgを積載し無事故の大記録を達成している。

1936年に10回北米ルートを満室状態で飛び、シーズンオフに4人部屋を含む10人分のキャビンを増設した「ヒンデンブルク」が大惨事を起こしたのは翌年最初の北米航としてフランクフルト・レークハーストを飛びその着陸時であった。

このとき、エッケナー博士はナチにより事実上抹殺されてエルンスト・レーマンが社長として乗船し、プルス船長が運航責任者であった。
事故の原因は雨の中着陸体勢に入ろうと無理な操舵を行ったために縦通材間に張られていたワイヤが切断しガス嚢を破損し、漏れた水素ガスに引火したと言われているがもしエッケナーが乗っていたら起きなかった事故かも知れない。
(社長になっていたレーマン船長は死亡し、LZ-2以来ツェッペリンの全飛行船を設計してきたデューア技師が後任の社長になった。)

LZ-129「ヒンデンブルク」は1936年3月26日、ナチのプロパガンダ飛行に出発するときに下部垂直尾翼を地表に当てて損傷しているがこのとき「ヒンデンブルク」を指揮していたレーマン船長は帰任した際にエッケナー博士から安全な運航のために細心の注意を払わなかったと手酷く叱られている。

飛行機は非常に多くの燃料を消費して高速状態で翼による動的浮力で飛行するのに対し、飛行船は気体の比重差による静的浮力で空中に浮いているので飛行に要するエネルギーは桁違いに少ない。

比較の条件は不明であるが、一説によれば飛行船の燃料消費はは飛行機の16分の1という。
省資源で環境にもやさしい飛行船は遊覧飛行やアトランタオリンピックで行われたような上空からの実況中継、通信中継媒体、地球環境観測など今後も活用出来る用途があると思われる。

一般には『風に最も弱い』と思われがちであるが「グラーフ・ツェッペリン」は上に述べたように約9年間に590回、170万kmもの飛行を無事故で全うしている。
物の本によればフリードリヒスハーフェンからローヌ川添いの狭い通路は地形の関係で何度もひどい暴風雨に遭遇している。

本当に飛行船は『風に最も弱い』のであろうか?

このほか
飛行船の上昇限度は何で決まるのか?
グランドクルーが飛行船を飛ばしていると言うが彼等は何をしているのか?
飛行船の上昇/下降・飛行高度維持・姿勢保持はどうしているのか?
硬式・軟式・半硬式飛行船はどう違うのか?
離陸や着陸方法の種類やその選択基準はどうなっているのか?
緊急時に上昇/下降する方法とその手順は?
など沢山の疑問・質問がある。

ここではこんな飛行船の基本を思いつくまま順不同に挙げてゆこうと思っている。

写真は2006年6月10日、当地に来訪した半硬式飛行船ツェッペリンNT「JA101Z」である。

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