2007年08月16日

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(飛行船:419) エッケナー博士とツェッペリン飛行船(70)

LZ127PC001.jpg
(ロサンゼルスには格納庫がなかったのでマスト繋留であった。)

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 世界周航(23)

しかし、飛行船は米海軍のキビキビとしたグランドクルーの手で上手に引き回され、繋留索まで曳いて行かれ、そこでしっかり繋留された。

その間に乗客は、世界的に有名な映画の街を訪れるために下船していた。

飛行船には当直の者だけが残り、米海軍の加勢を受けて次の区間の飛行準備にあたった。
浮揚ガスと燃料を満載しなければならなかった。

燃料ガスの4分の3とガソリンを、太平洋を渡るために消費していたからである。

搭載され、まだ残っている燃料は35時間の飛行で使い果たすと想定された。
ロサンゼルスからレークハーストまでは約50時間掛かると予想されるので、これでは不足であった。

緊急時にはエンジンを低速で駆動し、レークハーストまで残量で何とかたどり着けるかも知れなかったが、それは危険な賭であり、ロサンゼルスには計画に従って燃料が用意されていた。

ハースト氏の主催する晩餐会が、素晴らしい雰囲気のうちに開催され、よく行われるような技術の発展や国際商取引などに関するスピーチが行われていた。

カリフォルニア沿岸の人達にとって、この広漠とした太平洋を、日本から3日で飛来した飛行船と遭遇することは本当に貴重な経験であった。

しかし私は、心の底からリラックス出来なかったので、まもなく作業の様子を見るために飛行船に戻った。
ここでの着陸の様子から心配であったからである。

当直士官として現場を指揮している、友人のフレミング船長に会った。
彼は「博士、飛行船が重くて上がりません」と言った。

私は搭載してきた水素と燃料の量を計算した。

日中、太陽に暖められたガス嚢が大量のガスを吹き出したものと思われた。
ガスの充填は夕方になるまで始めることが出来なかった。

その飛行場のガスボンベは空であり、ガスの充填は不可能であった。

乗組員の一部を下船させ、列車でレークハーストに向かわせなければならなかった。
その上、燃料とバラスト水をギリギリ最小限まで減らさなくてはならない。

こうして、何とか飛行船を「ウェイ・オフ」させた。

しかし、飛行船はしっかり冷やされた地表層の空気で辛うじて浮いているのであり、上空の暖かい空気層に上がるやいなや、すぐに重くなることは目に見えていた。

イチかバチかの危険な操船を試みなければならなかった。

「全エンジン、前進!」
それで飛行船はちょっと浮き上がった。

徐々に暖気層に上がっていった。

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[註1] 浮揚力不足
このときの浮揚力不足は深刻であった。
エッケナー博士は、飛行場のガスボンベに水素ガスが供給されるのを待って、浮揚ガスを充填するべきか迷ったことであろう。
しかし霞ヶ浦では出発の際、台車のトロリーが脱輪して飛行船を壊し、その補修で1日遅れていた。
それで危険な賭に成否を委ねたものと思われる。
このサイズの飛行船では外気温が1℃下がると浮力は0.3トン増加する。
浮力と重力のバランスで空中に浮かんでいる飛行船にとってこれは大きい。
(「ZRⅢ(LZ-126:ロサンゼルス)」をアメリカに納入するときも朝の暖かい霧のために浮揚出来ず、翌朝まだ暗いうちに出発している。)
洋上船舶も浮力と重力のバランスで浮いているが、水と空気の比重は3桁も違うので1トンや2トン増えても減っても喫水は殆ど変わらないし、それを甲板上で100m移動させてもトリム変化も無視出来る。
(この点では飛行船は洋上船舶より、全没している潜航艇に似ている。)
船の浮力は通常静的浮力が殆どであるが、モーターボート型や水中翼船など高速艇では水との相対速度で生じる動的浮力が大きくなる。
飛行船もこれと同じで、「グラーフ・ツェッペリン」の場合、通常はピッチ角±1度の範囲で運航されるが、毎時115kmの巡航速度では1度のトリムで約2トン、2度で3.5トン、3度で4.5トンの動的浮力が得られる。
(全エンジン全開では5度のトリムで8トン、12度で12トンと推定されていたが実際には用いられたことはないという。)
エッケナー博士はこれで乗り切ろうとしたのである。

[註2] 乗船者
この世界周航で、乗客定員は定員一杯の20名を乗せていたが、この区間だけ17名に減らしている。
乗務員を減らすだけでは足りず、乗客にもお願いしたのかも知れない。
この埋め合わせかどうか判らないが、レークハースト・フリードリッヒスハーフェン間は23名の乗客を乗せたと記録されている。
何処に乗せたのであろうか?


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