2009年11月05日

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未来の旅客用飛行船を考える(19) 硬式飛行船とは(2)

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硬式飛行船とは何かということをもう少し検討してみる。

予備知識として、もっと一般的な水上船舶を考えてみる。

船舶はなぜ浮かぶのか考えて見ると、没水部分の体積と等しい水の重量と船体重量がつり合っているからである。
これをアルキメデスの原理という。
真水の比重が1.0に対し、海水は塩分などが含有されているために1.0よりやや重い。河口や南氷洋など場所によって1.02から1.03など微妙に異なるが、造船所など設計で用いる場合、便宜的に1.025として用いられている。
従って、外洋からセントローレンス運河など濃度の薄い水域に入ると喫水が僅かに変動する。

しかし、水の比重に較べて桁違いに小さいので無視されているが、喫水面以上の部分は空気を排除しているわけである。

そして水も流体であるから、浮かんでいるときには、地球の重力により重心と浮心が鉛直上下になっている。
船に大きな重量貨物を置いても、水線面積が大きいので僅かしか喫水は変動しない。
例えば、長さ240メートル、幅30メートルの船舶では50トンの重量物を搭載しても喫水の変動は高々1センチメートル程度である。
また、この重量物を船体中心線上で前後に移動させても船首、船尾の喫水差(トリムという)の変化も僅かである。

搭載重量を幅方向に移動させれば横傾斜が生じるが、船体横断面形状はこのような重心位置の移動に伴う横傾斜が増大すると没水部断面が変動し、その浮力により船体を鉛直方向に立て直そうとする力が生じる。これを(横)復原力という。

甲板上に貨物を積み過ぎたりすると船体全体の重心点が浮力の中心(浮心)より上になることがある。決して好ましい状態ではないが、それでその船舶が横転するとは限らない。横傾斜により生じた復原力により横傾斜(ヒールという)は一定の角度で静定する。
このような船舶の復原性能についてはメタセンターという概念を導入して説明されるが、ここは造船工学の教室でも船舶工学科の通信教育でもないので詳しくは述べない。

ところが飛行船は空気中に浮かんでいるので、ちょっとした気圧や気温の変化で浮力が増減したり、船内のポンプでバラスト水を移動させたり、乗組員が数名中央通路を移動するとトリムの変動を生じる。

ナチスはツェッペリンの飛行船を国民投票やベルリンオリンピックでプロパガンダに活用したことはよく知られている。
オリンピックのメインスタジアム上空に飛来した「ヒンデンブルク」は船首を下げてスタジアムに挨拶をしたことが当時の新聞で報じられているが、そのとき飛行船では手空き要員が中央通路の後部に集められ、号令とともに船首へ走ったと言われている。

このように飛行船は浮力と船体構造を含む重量が許容範囲で一致せねばならず、重心と浮心も許容誤差範囲になければならなかった。

ルートヴィヒ・デューアやパウル・ヤライは基本計画図に基づいて実際の構造図を作図し、その図面から船体構造やエンジンを含む重量や重心位置を試算し、浮力や浮心との差を精算し、何度も変更しながら設計を煮詰めていったと思われる。

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